酪農家って儲かる？収入を増やすためにできる7つのことを解説

「酪農家って儲かるの？」「酪農家が儲かる方法はある？」

酪農家への就職を考えている方は、このような疑問をお持ちではないでしょうか。

酪農家は、条件次第では専従の社員の年収が1,000万円を超える可能性があります。しかし、酪農業界が直面している「酪農危機」が影響しているため、酪農家が儲かるとは限りません。

この記事では、酪農家は儲かるのか、その現状や酪農危機から脱却して酪農家として儲けるための方法について解説します。紹介する方法を実践すれば、酪農家として収入をあげる方法がわかり、安定した牧場経営が可能となるかもしれません。なるでしょう。ぜひ最後までお読みください。

＊酪農危機とは、飼料価格の高騰と生乳価格の抑制が重なり、酪農家が経営困難に陥る状態です。酪農家の減少の一因となっています。

「酪農が儲かる」は嘘？酪農家の約85%が赤字経営

酪農家は儲かるといわれがちですが、実態はかけ離れています。

というのも、酪農家の約85%が赤字経営に直面しており、そのうち43.6%は月100万円以上の赤字を抱えているからです。この厳しい状況から、約60%の酪農家が牧場経営や事業をやめることを検討しているものの、多くの酪農家が事業の継続を選択しています。

そのおもな理由は、以下のとおりです。

・生活の維持
・借入金の返済
・日本の食の基盤維持

経営の悪化により、改善の兆しが見えないことから、多くの酪農家が精神的苦痛を感じています。

このように「酪農が儲かる」というイメージと現状は大きく異なるのです。

参考：日本の酪農家の85％が赤字経営｜中央酪農会議

酪農家の3つの収入源

酪農家のおもな収入源として、以下があげられます。

・生乳の生産と販売
・子牛の生産と販売
・自社での製品製造・販売などの6次産業

生乳をしぼって販売したり、子牛を管理したりすることが酪農家の重要な役割です。

しかし、酪農家の経営悪化の一因に「子牛が売れないこと」があります。子牛の販売ができなければ、ひとつの収入源が失われてしまうため、複数の収入源を確保しておくことが必要です。

酪農家の収入源について、それぞれ見ていきましょう。

1. 生乳の生産と販売

生乳の生産と販売は、酪農業のおもな収入源です。生乳の最終的な価格は「乳価交渉」によって決定します。

乳価とは、生産者（酪農家）と乳製品メーカーの合意にもとづいた生乳の価格で、価格決定までの過程を乳価交渉といいます。生乳の品質や市場の需給バランスによって乳価は変動するため、酪農家が一定の収益を得るのは難しいです。

たとえば、品質のよい生乳が生産されれば高い値がつきますが、品質が悪ければ低い値がつく可能性があります。酪農家が生乳の生産と販売で効率的に収益をあげるためには、生乳を多く生産し、その質を高める工夫が重要です。

参考：酪農・牛乳乳製品に関するご意見お問合せについて （FAQ）｜農林水産省

2. 子牛の生産と販売

酪農家にとって、子牛の生産と販売も重要な役割です。

牛は人間と同じように、出産しなければ生乳を生産できないため、酪農家は親牛に子牛を産ませ生乳の生産を維持しています。生まれた子牛は、次世代の乳牛として育てられ、生乳の生産に役立てられます。

また、ほかの酪農家に売ることで収入を得ることも可能です。さらに、オスの子牛の場合、肉用牛として販売され、これも酪農家には重要な収益源です。

しかし、近年では肉用子牛の販売価格が低下しており、酪農家の90%以上が酪農経営で打撃を受けているとしています。

参考：全国平均肉用子牛価格の推移（黒毛和種、交雑種・乳、ホルスタイン種）｜農畜産業振興機構

3. 自社での製品製造・販売などの6次産業化

酪農の6次産業化（自分の牧場や会社で製品を作ったり販売したりすること）により酪農家は収益をあげてます。

酪農の6次産業化の具体的な取り組みとして、以下があげられます。

・自社製品のブランド化
・レストランの経営
・酪農製品や加工品などの畜産製品の直接販売

たとえば、千葉県のある農場では、自家製生乳を使ったアイスクリームの製造と販売をおこなうことで、収益性が向上しました。

小さなサイズのアイスクリーム製造にも対応し、大手企業との差別化が図れたことも、収益が増加した一因です。この事例は、牧場の規模に関係なく、6次産業化による事業の拡大で収益をあげることが可能であることを示しています。

このように6次産業化は、酪農家にとって大切な収入源になるでしょう。

参考：効率的な繁殖管理と6次産業化の取組による酪農経営の安定化｜千葉県

酪農業界の現状｜酪農家を廃業に追い込む酪農危機

いくつかの収入源がありながらも、酪農家の多くが赤字経営や廃業に追い込まれたりする背景には、深刻な「酪農危機」が存在します。この危機を乗り越えない限り、酪農家が安定した収益をあげることは難しいです。

酪農家を廃業に追い込む酪農危機について、くわしく解説します。

酪農危機とは

酪農危機とは、飼料価格の高騰と生乳価格の抑制が重なり、酪農家が経営困難に陥る状態をさします。飼料価格の上昇により支出が増える一方で、乳製品の価格が抑制されているため、酪農家の収入が減少しています。

この厳しい経済状況により、2022年以降、酪農家の数は急激に減少しました。また、2023年の調査では、酪農家の60%近くが離農を検討しているとされています。

酪農危機は、家計にも深刻な影響をおよぼしており、55.4%の酪農家が生活費の削減を余儀なくされています。

酪農危機はなぜ起きたのか

酪農危機の原因として、以下があげられます。

・円安による飼料や燃料の高騰
・ウクライナ侵攻による飼料の高騰
・バター不足解消のための牛の増頭直後の社会変化
・コロナ禍による学校給食停止や外食産業・観光業の低迷

まず、コロナ禍により学校給食の停止や外食産業の低迷が生じ、乳製品の需要が減少しました。また、ウクライナ侵攻により飼料価格が急激に上昇し、くわえて円安の影響で飼料や燃料コストがさらに高騰しました。

バター不足の解消を目指して牛を増頭した直後に、これらの社会変化が起こり、酪農家は大きな経済的な負担を抱えることになったのです。牛の数を増やしたことで飼料にかかる出費は増え、反対に乳製品の売れ行きが悪くなり、支出が増大している状況です。

これらの要因が重なって、酪農家は経営悪化に直面し、酪農業の廃業を余儀なくされています。

参考：酪農危機はなぜ起きたのか？背景や乗り越えるためにできることを解説 – Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつくるメディア「リプラス

酪農家が儲かるためにできる7つのこと

酪農危機に直面している状況でも、酪農家は収益をあげるための工夫が必要です。

・収益源を増やす
・長期契約の獲得と直接販売の活用をする
・牧草の自給自足で飼料のコスト削減を目指す
・技術の導入や人材の適正配置で効率的な経営をする
・エコフィードを活用する
・ソーラーシェアリングを導入する
・行政の補助を利用する

上記の方法を実践し、経営の安定化と収益の向上を目指しましょう。

それぞれ解説します。

1. 収益源を増やす

酪農家が酪農危機を乗り越えるためには、収益源を増やすことが重要です。

たとえば、牛乳や乳製品の生産だけでなく、観光酪農や農業体験の提供によって、牧場を訪れる方から新たな収益を得ることが見込めます。

また、酪農副産物である堆肥の販売や、地元の特産品の開発・販売を通じて付加価値を高められるでしょう。これにより、6次産業化を進め、収入源の多様化が図れます。

このような取り組みは、収入の安定化とリスクの分散につながります。

2. 長期契約の獲得と直接販売の活用をする

安定した収入を得るためには、販売先と長期契約を結ぶことが有効です。

たとえば、大手スーパーや地元のレストラン、学校給食などと契約を結ぶことで、一定の需要を確保できます。また、直売所やオンライン販売を通じて、直接消費者に乳製品を販売することで利益率の向上が見込めます。

さらに、消費者との直接のやり取りにより、製品の品質管理が徹底され、情報を隠さずに提供することで、消費者の信頼が高まるでしょう。その結果、自社のブランド価値を高められ、収入アップが期待できます。

3. 牧草の自給自足で飼料のコスト削減を目指す

牧草の自給自足を進めることで、飼料のコストを削減できます。

牧草地の管理には時間と労力が必要ですが、質の高い牧草を自ら生産することで、外部から飼料を購入するコストを抑えられるからです。また、ある調査によると、自給自足ができる酪農家は経営が安定しやすいことが示されています。このように、飼料コストを削減することで、収益性を高められます。

参考：酪農危機はなぜ起きたのか？背景や乗り越えるためにできることを解説 – Re+ │ 地域と楽しむ、挑戦する。新しい農業のカタチをつくるメディア「リプラス

参考： 第３３話　牧草地を活用すれば酪農はもっと儲かる？｜ 北海道立総合研究機構
参考：エコフィードの取組事例｜農林水産省

4. 技術の導入や人材の適正配置で効率的な経営をする

酪農業に最新の技術を導入し、作業の自動化や省力化を進めることで生乳の生産性を高められるでしょう。

また、人材を適切に配置し、労働環境を整えることで、作業の無駄を省けます。技術を取り入れて人件費を抑えたり、労働環境を整えて業務の効率化を図ったりすることで、経営効率をあげることが期待できます。

効率的な経営は、収益の向上とともに、酪農危機からの脱却にも役立つでしょう。

5. エコフィードを活用する

エコフィードの活用が、酪農危機を乗り越える手段です。

エコフィードとは、食品の製造過程で生じる副産物や売れ残りの食品を再利用した飼料です。これにより、コスト削減と環境負荷の低減が実現できます。たとえば、北海道のエコフィード利用組合では、地域で発生するおからを収集し、乳牛の混合飼料を作り出しました。

これにより、乳飼費（牛乳を生産するのにかかる飼料の費用）を39.9%から34.0%に改善できました。エコフィードの活用は、飼料自給率を高めて自らの経営安定化を図れます。

食物残渣や売れ残りの食材を使用するため、自然環境や社会にも貢献できます。これがアピールポイントとなり、自社製品のブランド力も高められるでしょう。

参考：スマート農業の導入事例について紹介します／茨城県

6. ソーラーシェアリングを導入する

ソーラーシェアリングを導入することで、収益アップが期待できます。

ソーラーシェアリングとは、酪農業と同時に太陽光発電をおこない、エネルギーコストの削減と収益源の拡充を目指す取り組みです。酪農エリアに太陽光発電設備を設置し、発電した電気を自家消費することで、エネルギーコストを削減できます。

また、余った電力を売ることで、副収入を得ることも可能です。こうした取り組みにより、収益性が高まり、経営の安定化が見込まれます。

7. 行政の補助を利用する

酪農家は、農林水産省が提供する支援事業を活用することで、経営の安定化を図れます。

以下は支援内容の一例です。

参考：酪農関係事業等一覧表｜農林水産省

これらの補助を受けることで、経営コストを抑え、酪農危機に対処するための財政的なサポートを得られます。

最新の事業内容を確認し、自らの事業に活用しましょう。

酪農業界の将来性

酪農業界は、後継者不足や経営者の高齢化といった課題に直面しています。

これらの課題を解決し、業界の将来性を高めるためには、以下の取り組みが重要です。

・スマート農業の導入による業務の効率化
・若い世代に酪農を身近に感じてもらう地域交流

たとえば、哺乳ロボットを導入した牧場では、20頭の子牛の哺乳にかかっていた作業時間をほかの業務にあてられ、業務の効率化が実現できています。こうした効率化は、働きやすい環境を整え、経営の安定化にもつながるでしょう。また、地域との連携を深めることで、若い世代が酪農に興味を持ち、魅力を感じます。これにより、後継者不足の解消が期待できます。

さらに、日本の酪農を持続させるには、生乳や子牛の生産といった一次産業にとどまらず、新たな事業展開が不可欠です。スマート農業や地域交流の取り組みとともに、新しい事業展開が相まって、酪農業の持続可能な発展が期待されます。

参考：スマート農業の導入事例について紹介します／茨城県

酪農で儲かるポイントは酪農危機の脱却策の徹底

酪農で儲かるためには、酪農危機を克服するための対策を徹底することが重要です。たとえば、コスト削減や生産性向上のための技術導入、効率的な飼料管理があげられます。

また、自社製品のブランド化や直販を通じて収益を得ることも有効です。これらの対策を実践し、経営の安定化と成長を目指すことで、酪農業の発展が期待できるでしょう。

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